QUESTIONS質問主意書

第185回国会 「生活扶助相当CPI算出の検証及び生活扶助基準改定に関する質問主意書」(2013年11月28日) | 福島みずほ公式サイト(社民党 参議院議員 比例区)

質問主意書

質問第七五号

生活扶助相当CPI算出の検証及び生活扶助基準改定に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十五年十一月二十八日

福島 みずほ   

       参議院議長 山崎 正昭 殿

   生活扶助相当CPI算出の検証及び生活扶助基準改定に関する質問主意書

 政府は今年一月に、今年八月から段階的に生活扶助基準を切り下げることを発表した。その中で、主な理由として「物価下落への連動」を挙げ、生活扶助相当CPIという新しく厚生労働省が作り出した指標を切下げに反映させた。生活扶助相当CPIは、平成二十年の平均が百四・五、平成二十三年平均が九十九・五だとし、この間の下落率を四・七八パーセントとしている。生活扶助相当CPIの対象品目は、CPIの総合指数の対象品目から生活扶助費で原則賄わない品目を除外したものであることも説明している。

 その後の国会審議では、平成二十年の生活扶助相当CPIの算出方式に疑問の声が挙がった。総務省統計局が公表している通常のCPIでは、平成二十年平均のCPIは、個別品目の平成十七年基準のウエイトにその品目の平成十七年基準(平成十七年平均を百とする)の指数を掛けるといった手順で算出されている。これは、当然ながら国際的に学問的裏付けが十分にされた方式である。

 ところが、厚生労働省が算出した平成二十年の生活扶助相当CPIは、個別品目の平成二十二年基準のウエイトにその品目の平成二十二年基準(平成二十二年平均を百とする)の指数を掛けるといった手順で計算され、百四・五とされている。平成二十二年は、平成二十年から見ると未来の年である。これまで総務省統計局は、未来の年を指数の基準年(未来の年の平均を百とする)としたCPIを公表したことはない。総務省統計局は最新のCPIの公表を続けており、未来の年を基準年としたCPIは算出しようがなく、当然である。未来の年を基準年にした平成二十年についての厚生労働省の生活扶助相当CPIの算出方式は極めて特異である。

 厚生労働省が平成二十年の生活扶助相当CPIを算出した際の対象品目は四百八十五品目である。その四百八十五品目について、通常のCPIの算出方式を使い、平成二十年の生活扶助相当CPIを計算することができる。個別品目の平成十七年基準のウエイトにその品目の平成十七年基準(平成十七年平均を百とする)の指数を掛けるといった手順である。その通常の方式で計算された数値は平成十七年基準であるので、それを平成二十二年基準に換算すると、百一・八という数値が出てくるが、平成二十三年の生活扶助相当CPIの九十九・五とを比較すると、下落率は二・二六パーセントとなる。この間のCPI総合指数の下落率は二・三五パーセントであり、二・二六パーセントは違和感がない数値である。ところが、政府は、生活扶助相当品目の平成二十年から平成二十三年にかけての下落率が四・七八パーセントとしている。三年間でこれほど物価が下がったことは太平洋戦争後なく、非常に大きな下落率と言える。生活扶助相当の品目の物価下落率を過大に偽装したのではないか、との指摘もマスコミなどから出ている。

 CPIは、対象品目の個々の品目のウエイトにその品目のその時点の指数を掛けて、その積を足していく加重平均で求める。全体としての物価の変動が小さい今の状態では、指数の下落が続いている品目の指数は、加重平均であるCPIを必ず押し下げる。指数の下落が続いていた代表が電気製品である。電気製品などの値下がりによって物価が下がっていた、というのは国民の一般常識的な感覚とも一致する。ところが、厚生労働省による平成二十年の生活扶助相当CPIの算出方式では、値下がりが続く品目の指数が生活扶助相当CPIを押し上げる。電気製品の各品目でその傾向が顕著である。平成二十二年を百とする基準としているため、値下がりが続く品目の平成二十年の指数は百よりかなり大きな数字になり、平成二十年の生活扶助相当CPIを押し上げるのである。平成二十年から見て未来の平成二十二年を指数の基準年としたことで発生した問題である。値下がりが続く電気製品の各品目によって、多くの品目からなる加重平均の物価指数が押し上げられることは、国民の一般常識的な感覚とはまったく相容れない。

 厚生労働省による平成二十三年の生活扶助相当CPIの計算では、通常の方式と同じく、平成二十三年から見て過去の平成二十二年を指数の基準年にしており、同様の問題は起きていない。通常と全く違った方式で計算された平成二十年の生活扶助相当CPIと通常の方式で計算された平成二十三年の生活扶助相当CPIとを比べても、生活扶助相当品目の正しい物価下落率になるとは考えられず、経済統計学会などでもそうした指摘が出ている。

 平成二十年から平成二十三年にかけての生活扶助相当CPIの下落率が四・七八パーセントとしたのは厚生労働省である。国会審議などを踏まえると、計算又は結果を公表するまで厚生労働省がCPI統計の本家である総務省統計局に相談した形跡はない。

 平成二十年から平成二十三年にかけての生活扶助相当CPI下落率四・七八パーセントという水準には、マスコミや統計学者などから疑問の声が上がっている。その原因の一つは、厚生労働省が物価統計に詳しい学者など外部の意見を聴かなかったことだと思われる。

 厚生労働省は平成二十年の生活扶助相当CPIの計算で、指数の基準年だけでなくウエイトの基準年も平成二十二年にした。「指数の基準年を二十二年にしたのはウエイトの基準年を二十二年にしたことに合わせたものである」といった説明を厚生労働省はマスコミなどにしていると聞く。

 また、「新しい基準にした方が二十年のウエイトの実態に近くなる」といった理由を示しているが、平成二十二年を基準年にしたことにより、現実と計算の前提が大きく乖離してしまった品目もある。代表的な物がテレビである。テレビのウエイトは平成十七年基準だと三十七だが、平成二十二年基準だと九十七である。これは、地デジ化の影響により、平成二十二年にテレビの販売台数が急増したことを反映している。平成二十年のテレビの販売台数の伸びは平成二十二年と比べると小さいが、平成二十年の生活扶助相当CPIの計算は平成二十二年基準のウエイトで計算されるため、九十七の大きなウエイトで計算されてしまっている。このウエイトは明らかな虚構である。

 また、九十七とのウエイトは概ね一般世帯の平均を示したものである。生活保護世帯では平成二十二年も、一般世帯ほどにはテレビの購入度合いが増えていない。地デジ化への対応目的でテレビを買い換えなくてもいいようにチューナーの無償配布といった措置が生活保護世帯向けに行われていたからである。従って、平成二十年のテレビのウエイトが九十七として計算されているのは、生活保護世帯の現実とは非常に大きく乖離している。厚生労働省による平成二十年の生活扶助相当CPIの計算では、テレビは指数も二百五・八と極めて大きく、平成二十年の生活扶助相当CPIを計算する際のテレビの「ウエイト掛ける指数の積」は対象全品目の中でも群を抜いて大きくなっている。仮に平成二十年のテレビのウエイトを三十七として計算すると、生活扶助相当CPIの平成二十年から平成二十三年にかけての下落率は、四・七八パーセントでなく三・八六パーセントとかなり小さくなる。

 生活扶助相当CPIの算出については右の数々の疑問があり、そのことが世間にも知られ始めている。このままでは統計の信頼性が揺らぐ。厚生労働省が学識経験者らの意見を聴く手続きを省いたことが原因になっている。

 生活扶助基準の切下げは今年八月以降、来年四月、再来年四月と段階的に行われる予定である。来年四月以降の切下げについては、状況が変化しているので、予定どおりには絶対に行うべきでない。状況変化とは、最近の消費者物価の上昇と、消費税導入によって起きることが確実な消費者物価の上昇である。生活扶助相当CPIで見ても、平成二十三年平均との比較では既に一パーセントほど上昇しており、来年四月までに更に上昇する部分、消費増税による上昇分の三つを合計すると、三パーセント以上の伸びになると予想される。

 来年四月、再来年四月に予定されている基準変更は、こうした物価上昇分との差引きの考え方で決定するのが自然な考え方である。この来年四月以降の生活扶助基準の改定額を考えるときにも、生活扶助相当CPIの下落率四・七八パーセントが正当なものかどうかが問題になる。

 来年四月以降の生活扶助基準の改定額の計算を再び厚生労働省が単独で行い学識経験者の意見を聴かずに済ませるとすれば、その改定額にも疑問の声が大きくなりかねないことに懸念を表明する。

 右の点を踏まえ、以下質問する。

一 生活扶助相当品目の平成二十年から平成二十三年にかけての物価下落率は、従来の政府の考え方だと二・二六パーセントである。ところが、政府は生活扶助相当CPIの算出に際しては、この間の下落率を四・七八パーセントとした。生活扶助相当品目の物価水準について、通常の方式で計算した数値と二パーセント以上も開きがある数値を政府が採用したのはおかしい。現在でも平成二十年から平成二十三年にかけての生活扶助相当品目のCPI下落率を四・七八パーセントと考えているのか、政府の見解を明らかにされたい。

 そう考えている場合には、従来の考え方による生活扶助相当CPIの平成二十年から平成二十三年にかけての下落率二・二六パーセントとの数字は間違いであるのか、明らかにされたい。

二 比較しようとしている年から見て未来の年を指数の基準年として加重平均を計算した消費者物価指数が、正しく物価の水準を示すと考えているのか、政府の見解を明らかにされたい。

三 四・七八パーセントという数値を公表するまで、この件で厚生労働省は本当に総務省統計局に相談していなかったのか。

四 厚生労働省は四・七八パーセントという下落率を公表するまで、この件で物価統計の専門家など政府外の識者の意見を聴かなかったのか。

五 平成二十年の生活扶助相当CPIの計算における指数の基準年を平成二十二年にしたのは、ウエイトの基準年を平成二十二年としたのに合わせた、という説明で間違いないか。

六 平成二十年の生活扶助相当CPIの計算において、平成二十二年基準のウエイトを使ったことについては妥当性があるかどうか、現実との齟齬が出ないかなどを事前に十分に検討したのか。

七 生活扶助相当CPIの算出が正当になされたかどうかを検証するために、学識経験者らの意見を聴く場を設ける考えはないか。

八 平成二十六年四月、平成二十七年四月に予定されていた生活扶助基準の見直しは、既に起きつつある物価上昇や消費税増税による物価上昇の度合いを考慮に入れて改定額を見直すべきだと考えられるが、政府の見解を明らかにされたい。

九 来年四月以降の生活扶助基準の改定額を見直すために、学識経験者らの意見を聴く場を設ける考えはないか。

  右質問する。

答弁書

答弁書第七五号

内閣参質一八五第七五号

  平成二十五年十二月六日

内閣総理大臣 安倍 晋三   

       参議院議長 山崎 正昭 殿

参議院議員福島みずほ君提出生活扶助相当CPI算出の検証及び生活扶助基準改定に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。

   参議院議員福島みずほ君提出生活扶助相当CPI算出の検証及び生活扶助基準改定に関する質問に対する答弁書

一、二、六及び七について

 お尋ねの「生活扶助相当CPI」については、平成二十年平均生活扶助相当CPI(平成二十年の年平均の生活扶助相当CPIをいう。以下同じ。)は、生活扶助に相当する品目について、平成二十二年基準消費者物価指数の長期時系列データにおける平成二十年平均全国品目別価格指数(平成二十年の年平均の全国の品目別価格指数をいう。)に全国品目別ウエイト(全国の消費支出全体に占める品目ごとの支出額の割合をいう。以下同じ。)を品目ごとに乗じて得た値を合計した値を、全国品目別ウエイトを合計した値で除して算出したものであり、平成二十三年平均生活扶助相当CPI(平成二十三年の年平均の生活扶助相当CPIをいう。以下同じ。)は、生活扶助に相当する品目について、平成二十二年基準消費者物価指数の長期時系列データにおける平成二十三年平均全国品目別価格指数(平成二十三年の年平均の全国の品目別価格指数をいう。)に全国品目別ウエイトを品目ごとに乗じて得た値を合計した値を、全国品目別ウエイトを合計した値で除して算出したものであり、平成二十年平均生活扶助相当CPI及び平成二十三年平均生活扶助相当CPIを比較した場合、約四・七八パーセント減少している。

 また、今回の生活扶助基準の見直しに当たって、平成二十年平均生活扶助相当CPI及び平成二十三年平均生活扶助相当CPIを比較する手法により物価の動向を勘案した主な理由については、可能な限り最新の消費実態を反映し、全国品目別ウエイトの変化の影響を除いた物価の動向を勘案するには、このような手法を用いることが適切と考えたためである。

 なお、お尋ねの「学識経験者らの意見を聴く場を設ける」ことについては、考えていない。

三から五までについて

 お尋ねのとおりである。

八及び九について

 政府としては、平成二十六年度及び平成二十七年度における生活扶助基準については、予算編成過程において、消費税率引上げによる物価上昇等も勘案しつつ、検討を行うものと考えている。

 なお、平成二十六年度の生活扶助基準の見直しに当たって、お尋ねの「学識経験者らの意見を聴く場を設ける」ことについては、考えていない。

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