QUESTIONS質問主意書

第171回国会 「二〇〇九年三月二十三日のFDX八〇便事故についての事故原因究明に関する質問主意書」(2009年5月21日) | 福島みずほ公式サイト(社民党 参議院議員 比例区)

質問主意書

質問第一七三号

二〇〇九年三月二十三日のFDX八〇便事故についての事故原因究明に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十一年五月二十一日

福島 みずほ   

       参議院議長 江田 五月 殿

   二〇〇九年三月二十三日のFDX八〇便事故についての事故原因究明に関する質問主意書

 二〇〇九年三月二十三日、成田空港でフェデックス社の貨物機FDX八〇便(MD11型機)が着陸に失敗する事故が発生し、二人の米国人パイロットが亡くなった。

 私は、平成十九年五月二十三日付けで、一九九七年六月八日のJAL七〇六便事故についての事故原因究明に関する質問主意書を提出し、回答を得ている。この質問主意書において、私はMD11型機の耐空性について深刻な疑問を提起したところである。

 今回の同型機による深刻な死亡事故の再発を受けて、この二つの事故の原因究明に当たっての基本方針と、当該便に使用されていたMD11型機の耐空性について、以下質問する。

一 事故の状況について

 FDX八〇便の事故は、偶然にもNHKの空港カメラに事故の大部分が撮影されており、何度もニュース等で流された。非常にショッキングで、かつ極めて貴重な映像である。同機は一旦接地した直後に跳ね上がり、再度接地した際に左側に傾き、左翼が破壊され、横転、転覆し、大破、炎上したものである。

 これを英語では「Bounced Landing」といい、日本語に訳すと「飛び跳ねながら着陸する」とでもいうのであろうが、とにかく「異常な着陸だった」訳である。今回の事故は、単独事故で終わったが、地上にいる他の航空機に衝突していた可能性も大いにあり得た訳であり、犠牲になった二人のパイロットだけの問題ではないように強く感じる。まず、この事故における当該事故機の挙動とパイロットの操作との関係、その他事故原因と直接、間接に関係すると思われ、現在までに判明している客観的な事実、状況を説明されたい。

二 FDX一四便事故に係る調査の必要性について

 今回の成田での事故と全く同じといってよいような事故が、一九九七年七月に米国のニューアーク空港でも発生している。この時も一回接地し、バウンドし、再度接地した際に右主脚が破壊され、右側に傾き、最後には仰向けになってしまった、という事故である。機種も同じMD11型機、運航会社も同じフェデックス社で、FDX一四便であった。

 この時の事故原因は米国運輸安全委員会(NTSB)の調査によれば、「パイロットのオーバーコントロールであり、ゴーアラウンド(着陸を一旦中止して、上昇し、再び着陸をやり直)すべきだった」とされている。つまり「パイロットミスであった」という訳である。

 しかし、FDX一四便事故の事故機には同種の事故歴があり、一九九四年一月には今回と同じようにバウンドし、二回目に接地した時に大きなGを記録した。また、一九九四年十一月にも同様の事故を起こし、大修理を行った経緯がある。「本当にパイロットミスであったのか」という疑問も湧いてくる。

 そこで、FDX八〇便事故の事故原因の究明に当たっては、FDX一四便事故と類似のインシデントについて、徹底的な調査が必要であると考えるが、如何か。

三 CAL六四二便事故に係る調査の必要性について

 また、他社の事例でも一九九九年八月には、香港にて、チャイナエアラインのCAL六四二便が「ハードランディング(激しく接地すること)により大きなGが発生し、翼が破壊され、爆発、炎上し、やはり転覆、大破した」例も発生している。とにかく、MD11型機は事故が多く、その事故発生率は、他の大型機に比べると三~十倍になる。このCAL機事故についても調査の必要があると考えるが、如何か。

四 国土交通省に対する公益通報(整理番号〇八〇八三一B一〇〇〇〇一)の事実について

 実は、MD11型機のJAL七〇六便事故の事故原因と耐空性に関して、日本航空航空機関士である渡部(わたなべ)氏は、二〇〇八年八月二十日には原藤日本航空インターナショナル運航本部長に対し、二〇〇八年八月三十一日には国土交通省公益通報窓口に対し、①当該機長の裁判の第一審判決では、「機長による操縦入力以外の原因でピッチ変化の方向が変えられた可能性がある」と認定されている、②ピッチ変動は三秒周期である、③事故当時の人間工学ハンドブック(一九六九年版、金原出版、2.5.8、制御動作における人間の能力限界項)によると、このピッチ変動について、「変動する目標を制御する際、人間には制御限界があり、三秒周期の目標は制御不能である」旨のデータがある、④このデータに基づくと、「JAL七〇六便が遭遇したピッチ変動、機首の上下運動は、当該機長も含めた人間には制御不能であったのではないか?」、⑤さらに「このような容易に知りうることが出来る重要なデータに基づいて、どうして耐空性の適否が検討されていないのか?」「不作為、悪意ではないのか?」といった内容の通報を行っている。このような公益通報が行われた事実を確認できるか。

五 公益通報に関する調査について

 四の公益通報を受けて、国としてどのような調査を行い、どのような回答を行ったか。また、国として日本航空に対し、調査の指示を行ったか。指示を行ったとすれば、これに対する回答を明らかにされたい。指示を行わなかったとすれば、その理由を説明されたい。

六 JAL七〇六便事故の事故原因再調査の必要性について

 先に提出した質問主意書において詳述したとおり、一九九七年六月、日本航空所有のMD11型機、JAL七〇六便が三重県上空、約五千百メートルで急激な機首上げに続いて異常な上下動、ピッチ変動に陥る、という事故が発生した。この事故をめぐっては「パイロットミス」として、当該機の機長の過失責任を問う裁判が延々と五年間も行われた訳であるが、結果は無罪、事故原因は不明ということとなっている。また、この事故に関しても、当該機長本人、あるいは機長の所属する日本航空機長組合等からは「真の事故原因を明らかにする為に、再調査をすべき」との声も上がっている。今回のMD11型機の事故の再発や渡部氏の公益通報をふまえ、JAL七〇六便事故についても事故原因を徹底的に再調査する必要があると考えるが、如何か。

七 MD11型機の飛行特性の不安定さについて

 「飛行特性が不安定である、着陸が困難である」というが、MD11型機の機体自体はDC10型機を使用しており、大きな変更としては「二人乗りとする為に操縦室をハイテク化し、水平尾翼をDC10型機に比べて約三〇%小さくして抵抗を減少させ、コンピューター制御によりかなり重心位置を後方にして運航する」ことにした。この水平尾翼を小さくしたお陰で「経済性は向上した」訳であるが、その反面「縦操縦安定性が不安定になった」(これは、機首の上下動を安定させることが困難となった、という意味)と言われ、このような欠点をコンピューターで補完する設計となっている。そして、「水平尾翼が小さくなると、ピッチ変動が生じた際や着陸時のように細かな制御をする際に、減衰力が小さくなり過ぎたり、エレベーターの効果が悪くなったりといった弊害も出てくる」とされている。

 今回のFDX八〇便事故の事故調査に当たって、このようなMD11型機の飛行特性の不安定さと水平尾翼を小さくしたことによる飛行特性に対する影響について、徹底的な調査と検討を加えるべきであると考えるが、如何か。

八 耐空性審査要領と人間工学ハンドブックのデータについて

 一九九七年当時において耐空性審査要領第Ⅲ部6-2-5-6では「通常の運用中又は故障の生じた際のいかなる飛行状態においても、操縦者の調整可能範囲内で飛行機に危険な荷重を与え、又は飛行経路に危険な偏位を与えることのないように設計し、かつ調整しなければならない」、同2-6-5では「・・・すべての短周期運動は、次の各条件下で急激に減衰するものでなければならない。a主操縦装置を自由にした場合 b主操縦装置を固定した場合」と規定されていたと推察するが、確認の上、次の質問に答弁されたい。

1 JAL七〇六便事故の場合、原因は不明だが自動操縦装置が突然解除された。その後、異常な機首の上下動、振動状態に陥ってしまった。つまり、三秒周期の上下動が五回繰り返された。そして、「三秒周期で変化する目標は人間の能力として制御しきれない、人間の制御限界を超えた振動である」と人間工学ハンドブックに記載されていた。

 このような基本的なデータから判断すると、JAL七〇六便が陥った自動操縦装置解除後に発生した機首の上下動、振動状態は制御不能であり、現実に当該機長にも振動を制御しきれなかった。これは、耐空性審査要領第Ⅲ部6-2-5-6に適合しなかったといえるのではないか。

2 さらに、不可思議な状況として、二〇〇三年にはこの人間工学ハンドブックが新規に発刊され、その中では人間の制御限界についてのデータが大幅に削除されてしまっている。JAL七〇六便が陥った「三秒周期の振動は人間には制御しきれない」という判断の基準となる基礎的データが、削除された形になっているのである。国はこのような改訂に何らかの関与をしたか。

3 さらに、四で言及した第一審判決において、「JAL七〇六が陥ったピッチ角の変化の方向自体は、被告人の意図的な操縦輪(操縦桿のこと)への入力とは別の原因と考えられる」、「自動操縦装置解除後の機首の上下の繰り返しは、被告人の操縦輪への入力以外の原因が作用した可能性がある」と認定されている。

 一方、耐空性審査要領第Ⅲ部2-6-5の規定によると「当該機長が振動中に操縦桿から手を離したり、操縦桿を固定すれば、当該機が陥った振動状態が急激に減衰しなければならない」ことになっている。このような規定があったとするのなら、当然ながらこの規定を満たすか否かについて事故調査の過程で調査、検証がなされたはずであるが、その結果、データを明らかにされたい。また、そういった調査、検証をしなかったのなら、その理由を説明されたい。

4 そして、一九九七年当時、現在ともにMD11型機は「右記の両規定を満たしていた、いる」ことを確認できるのか。

九 再発防止のための事故原因の究明等について

1 成田での事故の際に、ウインドシアが報告されていたとの報道があるが、予断をもって、安易にウインドシアやパイロットミスが原因であるとの結論を導き出すような事故調査をすることは厳に慎むべきであると考えるが、如何か。

2 日本国内に限定しても、MD11型機については三重県沖に続いて、今回成田空港でも、重大な事故が再発したことになる。「MD11型機の操縦はかなり困難であり、それは不安定な飛行特性に起因するものではないか?」とささやかれてきた事実、MD11型機の耐空性についての公益通報さえ寄せられていた事実もある。

 FDX八〇便事故の原因究明は運輸安全委員会において、鋭意進められることと思うが、それに限らず、JAL七〇六便事故の徹底した原因の再究明を行い、ひいてはMD11型機の飛行特性、耐空性への適合性について、根本的な再検討を行うべきであると考えるが、如何か。

3 現状において、MD11型機の耐空証明の再検討を米国連邦航空局(FAA)に強く求めるべきではないかと考えるが、如何か。

 また、FAAが耐空性の見直しを認めないとしても、MD11型機に耐空性に適合しない飛行特性があるとすれば、わが国の航空安全行政の独自の立場から、当該型式機の本邦への乗り入れ自体を規制しなければならないと考えるが、如何か。

4 最後に、FDX八〇便事故の原因究明はその結果が重要であるばかりでなく、航空安全にとって再発防止を図ることが極めて重要なケースと考えられるので、意見公述の機会を設けるべきであると考えるが、如何か。

  右質問する。

答弁書

答弁書第一七三号

内閣参質一七一第一七三号

  平成二十一年五月二十九日

内閣総理大臣 麻生 太郎   

       参議院議長 江田 五月 殿

参議院議員福島みずほ君提出二〇〇九年三月二十三日のFDX八〇便事故についての事故原因究明に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。

   参議院議員福島みずほ君提出二〇〇九年三月二十三日のFDX八〇便事故についての事故原因究明に関する質問に対する答弁書

一について

 御指摘の「FDX八〇便の事故」(以下「本件事故」という。)については、現在、国土交通省運輸安全委員会において調査中であり、「当該事故機の挙動とパイロットの操作との関係」及び事故原因について何らかの判断を下し得る段階にはないが、国土交通省運輸安全委員会においては、事故発生直後に調査を開始し、現地における機体残骸の状況調査により、胴体はほぼ焼損していること、左主翼は翼根付近で破断していること等を確認した。また、併せて滑走路及びその周辺の痕跡調査、事故当時に関する気象情報の入手、関係者からの口述聴取等を実施するとともに、デジタル式飛行記録装置(以下「DFDR」という。)及び操縦室用音声記録装置(以下「CVR」という。)を回収した。DFDR及びCVRについては、米国国家運輸安全委員会の協力を得て、データの読み出しを行い、現在、その他の情報とともに詳細な分析を行っているところである。

 今後、必要に応じて、機体残骸等に関して更に詳細な調査を行うとともに、情報の分析を進め、事故原因を究明してまいりたい。

二及び三について

 本件事故の原因究明に当たっては、必要に応じて、本件事故と類似の事故等についても調査を行っていくこととしている。

四及び五について

 御指摘の国土交通省の公益通報窓口に対する通報については、通報の内容が公益通報者保護法(平成十六年法律第百二十二号)第二条第三項に規定する通報対象事実に該当しなかったことから、同法に基づく公益通報としては受理していない。このため、御指摘の渡部氏に対しては、その旨を通知したところであるが、お尋ねの「調査の指示」については行っていない。

六について

 御指摘の「JAL七〇六便事故」の原因究明については、運輸省航空事故調査委員会(現在の国土交通省運輸安全委員会)において、飛行特性や気象に関する調査について専門委員を任命するなどにより、事故原因について様々な角度から調査・解析を行った上で、航空工学、航空機の運航・整備、電子工学、航空機構造力学等を専門分野とする委員長及び委員による審議を経て、調査結果を平成十一年十二月十七日に航空事故調査報告書として公表しており、当該事故に関して、その後新たに重大な情報を把握していないことから、現時点では再調査を行う必要があるとは考えていない。

七について

 国土交通省運輸安全委員会においては、事故調査を行うに当たって、考え得るすべての面から科学的かつ客観的な調査を行っているところであり、本件事故についても、MD―一一型機の飛行特性を含め様々な視点から調査を行っているところである。

八の1について

 MD―一一型機の耐空性審査要領(昭和四十一年十月二十日付け空検第三百八十一号運輸省航空局長通達)の自動操縦装置系統に関する規定への適合性については、米国の航空当局が当該型式機の型式証明を行った際に、当該規定に対応する連邦航空規則(以下「FAR」という。)の規定への適合性を確認していると承知している。

八の2について

 お尋ねの「人間工学ハンドブック」の改訂について、国が関与したとの事実は把握していない。

八の3について

 御指摘の「JAL七〇六」と同じ型式機の飛行特性については、当該型式機の設計及び製造を行った者の事務所等に赴いて調査を行っており、当該型式機が耐空性審査要領の動的安定性に関する規定に適合することを確認しているが、関係データについては事故調査の目的以外には使用しないことを条件に入手したものであるため、お示しすることはできない。

八の4について

 MD―一一型機の耐空性審査要領の自動操縦装置系統及び動的安定性に関する規定への適合性については、米国の航空当局が当該型式機の型式証明を行った際に当該規定に対応するFARの規定への適合性を確認していると承知しており、また、その後米国の航空当局から当該型式機がFARの当該規定に適合しなくなった旨が通知されたことはないため、「一九九七年当時、現在ともに」継続して担保されているものと考えている。

九の1について

 国土交通省運輸安全委員会においては、事故原因の究明に当たって、客観的かつ多角的な視点から的確に調査を行っていくこととしており、御指摘の「予断をもって、安易にウインドシアやパイロットミスが原因であるとの結論を導き出す」ことは行っていない。

九の2について

 御指摘の「JAL七〇六便事故」については、六についてで述べたとおり、再調査を行う必要があるとは考えておらず、現時点において、「MD11型機の飛行特性、耐空性への適合性について、根本的な再検討を行うべき」とは考えていない。

九の3について

 現時点においては、MD―一一型機の飛行特性は耐空性審査要領の規定に適合していると考えており、米国の航空当局への「耐空証明の再検討」の要求及び「当該型式機の本邦への乗り入れ」の規制を行うことは考えていない。

九の4について

 本件事故に関し、「意見公述」の機会を設ける必要性があるか否かについては、今後、国土交通省運輸安全委員会が事故調査を進める中で判断することとなる。

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