QUESTIONS質問主意書
第186回国会 「リニア中央新幹線事業の妥当性に関する質問主意書」(2014年6月13日) | 福島みずほ公式サイト(社民党 参議院議員 比例区)
質問主意書
質問第一三八号
リニア中央新幹線事業の妥当性に関する質問主意書
右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。
平成二十六年六月十三日
福島 みずほ
参議院議長 山崎 正昭 殿
リニア中央新幹線事業の妥当性に関する質問主意書
六月五日、環境省から、国土交通大臣に対して中央新幹線(東京都・名古屋市間)に係る環境影響評価書に対する環境大臣意見(以下「環境大臣意見」という。)が提出された。環境大臣意見によれば、その事業規模の大きさから本事業に伴い相当な環境負荷が生じることが懸念されるとし、とりわけ、地下水のトンネル湧水発生、河川流量の枯渇、河川の生態系への不可逆的な影響を与える可能性が高いことを指摘している。大量の発生土や、希少動物の生息への懸念も示された。
また、環境大臣意見では国土交通大臣に対し、適切な環境保全配慮がなされるよう、事業者に対して適切な指導を行うよう求めている。
また、東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故発生後、節電は日本人共通の使命だが、現時点で約二十七万キロワットの電力が必要だとされている超伝導リニアによる中央新幹線(以下「リニア中央新幹線」という。)のエネルギー源は未定である。浜岡原子力発電所と柏崎刈羽原子力発電所の再稼動なしにリニア中央新幹線の稼動は可能なのかも注目されている。
インフラは連結性、共通性が基本条件であるにもかかわらず、利便性、緊急時の代替輸送機能の点からも、リニア中央新幹線事業がむしろ今後の鉄道網の整備を阻害する計画であると指摘する専門家もいる。
さらに、二〇一三年九月に東海旅客鉄道株式会社(以下「JR東海」という。)の山田佳臣社長(現会長)が「リニアは絶対にペイしない」と公言するなど、着工前から事業者が赤字になると見込んでいるが、国策で進めてきた事業のため、政府による税金投入は避けられない。
右の点を踏まえ、政府がリニア中央新幹線事業を妥当だとした方針について、政府の判断、建設・運営上のリスク管理、リニアの技術選択、環境大臣意見の各観点から、以下質問する。
一 政府の政治・行政上の判断について、全国新幹線鉄道整備法(以下「全幹法」という。)は、新幹線鉄道による全国的な鉄道網の整備を図り、主要都市間の有機的・効率的連結、もって国民経済の発展及び国民生活領域の拡大並びに地域の振興に資することを目的とすると明記しているが、リニア中央新幹線計画はいずれも該当しない。いかなる判断で整備新幹線として認めたのか、政府の見解を明らかにされたい。
二 全幹法ではレールも車輪もない超伝導リニア(以下「リニア」という。)を想定していないにもかかわらず、リニア中央新幹線事業について同法に基づく整備計画を決定したが、リニアはネットワーク性に欠け、全国新幹線鉄道網を分断するインフラであり、全く異質の交通機関であることから、特別立法が必要と考えるが、いかがか。
三 現在整備中の整備新幹線は最高時速二百六十キロメートルと定めているが、なぜリニアのみに最高時速五百五キロメートルを認めるのか。
四 これまでの整備新幹線は、国が決定し財源を負担し、運営をJR各社に委ねてきたが、リニアは全額JR東海負担を前提として政府は認可した。これは「国策民営化プロジェクト」または「国家プロジェクト」に該当するのか、政府の見解を明らかにされたい。
該当する場合、英仏海峡トンネル計画時に英国のサッチャー首相は事業会社に対し、政府が融資、債務保証、赤字補填の財政支援を一切行わないことを確約したが、建設・運営上のJR東海と国の責任分担はどのように定められているか、明確に示されたい。
五 政府は、リニア方式の異端的鉄道を整備新幹線に格上げし、閣議決定や了解、国会了承も得ずに、建設主体、営業主体を指名した。こうした政策決定が許されるのか、政府の見解を明らかにされたい。
六 JR東海は、リニア中央新幹線事業について、一九八〇年代には工事費三兆円で自主経営は不可能、二〇〇七年には九兆円で自主建設・運営は十分可能、二〇一三年九月は「リニアは絶対ペイしない」と採算見通しが二転三転している。
赤字を前提にした計画を安易に認可してよいと考えているのか、政府の見解を明らかにされたい。
七 リニア中央新幹線の建設中または開業後に、JR東海の経営が深刻な事態に陥った場合、政府はいかなる措置を講ずるつもりか。また、その場合の責任の所在について、政府の見解を明らかにされたい。
さらに、今回の事業主体は民間企業とはいえ、地域独占を保証された公益企業である。経営不振に陥っても、絶対国民に負担させないことを明記した事前協定を結ぶ方針は政府にあるのか。
八 JR東海の計画では、需要予測に将来の人口減少を織り込んでおらず、また、建設中の金利負担も織り込んでいない。政府はこうした無責任な計画を精査、修正指示もせず、傍観して着工を許可してよいのか。
九 環境影響評価の段階で、沿線住民及び県知事から多くの懸念や不満が政府に提出されているが、JR東海側から誠意ある対応や納得できる説明は殆どないと承知している。残土処理、電磁波、電力源、活断層の横断などは、現場のデータ提出を求め、政府が必要かつ適切な指示を出すべきと考えるが、いかがか。
いずれも重要な論点だが、とりわけ石橋克彦・神戸大学名誉教授の「地球上で最も変動の激しい関東・東海地方は、米国東部などとは異なり、リニアの建設には危険すぎる」という指摘を踏まえ、複合的地震被害をどのように考えるのか。また、リニア中央新幹線事業によるトンネルの掘削は地震を誘発する危険性はないのか。
十 東京-名古屋間が開業しても、赤字操業は確実視されている。従って名古屋以西の延伸工事は計画どおりに実施できない可能性が大きい。そうした事態は「想定外」では済まされないと考えるが、リニア中央新幹線計画を認可した政府の見解を明らかにされたい。
十一 最近、自民党国会議員が国費を投入して大阪までを同時開業せよと要求しているが、国民の合意もなく、財政を無視した「我田引鉄」の暴挙ではないか。
安倍首相が「国家プロジェクトと言っていい」などと発言し、税金を投入する考えを示したが、元々税金を投入しても採算が合わないとの考えでJR東海の単独事業になった経緯がある。
仮に、税金を投入する場合には、認可した計画自体を大幅に修正させるのが当然だと考えるが、政府が方針転換をしたならば理由と財源を明らかにされたい。
十二 政府は「我が国の新幹線は、安全性、信頼性、速達性、省エネ性、ネットワーク性、定時性、建設費用等の点では優れているが、リニアの方が高速性の点で優れているので、リニアが適当である」旨の交通政策審議会陸上交通分科会鉄道部会中央新幹線小委員会の答申を受けて、リニア鉄道の導入を即座に決定した。
ドイツ連邦議会はリニアの高速性は認めつつも、経済性、ネットワーク性、環境保全のマイナス面から計画中止を決定した。我が国政府は、高速性だけで勝るリニアを是と、正反対の政策判断をした。
しかし、移動時間の短縮を多くの国民が強く求めている根拠はなく、また、殆どが深い地下走行で、技術的にもリスクは大きく、絶対安全はあり得ない。他方、在来型新幹線は利用者の満足感も高く、安全かつ経済的な運営が五十年間維持され、世界で高く評価されている。それでも七十年代に米国も、二〇〇〇年にドイツも断念したリニアを一部だけに導入する国民的利益はどこにあるのか。
十三 リニア中央新幹線計画の再検討について、リニアは、世界にない技術実用化であるが、技術的信頼性、採算性、環境適応性等から判断すると、現段階ではなお不確実性が高く、多角的、総合的な検討が必要ではないか。鉄道は国民のためのインフラとして必要不可欠であり、長期的視点から検討し整備されるべきである。整備新幹線は沿線住民、国民のために整備されるものでなければならない。
従って、リニア着工前の現時点でもう一度立ち止まって、リニア中央新幹線の在り方、走行方式、実現可能性、採算性、環境配慮等を含め、抜本的な再検討をすべきではないか。また、これほど大規模かつ鉄道網の将来に大きな影響を及ぼす計画は国民の代表が集う国会の場で十分検討され、承認されるのが当然ではないか、政府の見解を明らかにされたい。
右質問する。
答弁書
答弁書第一三八号
内閣参質一八六第一三八号
平成二十六年六月二十四日
内閣総理大臣 安倍 晋三
参議院議長 山崎 正昭 殿
参議院議員福島みずほ君提出リニア中央新幹線事業の妥当性に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。
参議院議員福島みずほ君提出リニア中央新幹線事業の妥当性に関する質問に対する答弁書
一、五から八まで、十、十二及び十三について
御指摘の意味するところが必ずしも明らかではないが、中央新幹線の営業主体及び建設主体の指名並びに整備計画の決定に当たっては、国土交通大臣は、全国新幹線鉄道整備法(昭和四十五年法律第七十一号。以下「全幹法」という。)第十四条の二の規定に基づき、交通政策審議会に諮問を行っており、平成二十三年五月の同審議会の答申「中央新幹線の営業主体及び建設主体の指名並びに整備計画の決定について」(以下「答申」という。)においては、中央新幹線の整備について、「三大都市圏間の高速かつ安定的な旅客輸送を中長期的に維持・強化するものであり、国民生活及び国家経済にとって極めて重要である。」及び「三大都市圏以外の沿線地域においても、三大都市圏とのアクセス利便性を向上させ、・・・地域振興に寄与することが期待される。」とされている。また、答申において、中央新幹線の事業特性及び東海旅客鉄道株式会社(以下「JR東海」という。)の事業遂行能力を「総合的に勘案し、東京・大阪間の営業主体及び建設主体としてJR東海を指名することが適当である。」とされたこと等を踏まえ、同大臣は、全幹法第六条の規定に基づき、中央新幹線の営業主体及び建設主体としてJR東海を指名するとともに、全幹法第七条の規定に基づき、走行方式等を含む「中央新幹線の建設に関する整備計画」を決定したものである。
二及び三について
全幹法第二条において、新幹線鉄道は、その主たる区間を列車が二百キロメートル毎時以上の高速度で走行できる幹線鉄道をいう旨規定されており、その最高設計速度は、全幹法第七条に規定する整備計画において、走行方式等とともに定められるものである。
四について
御指摘の「国策民営化プロジェクト」及び「国家プロジェクト」の意味するところが必ずしも明らかではないため、お答えすることは困難である。
九について
環境影響評価については、環境影響評価法(平成九年法律第八十一号)において、事業者が関係都道府県知事等の意見を勘案するとともに、環境の保全の見地からの意見を有する者の意見に配意し、環境影響評価書を作成する旨規定されており、国土交通省においては、JR東海から提出された「中央新幹線(東京都・名古屋市間)環境影響評価書」について、環境の保全の見地からの意見を述べるため、現在、精査を行っているところである。
また、答申において、「在来型新幹線方式と比較して、超電導リニア方式は、地震時などにおいて・・・安全確保上の大きな利点がある。なお、鉄道施設の耐震性は、在来型新幹線方式と同様である。」とされている。新幹線建設に伴うトンネルの掘削により地震が誘発されたという事象は承知していない。
十一について
政府としては、御指摘のような方針転換を行ったという事実はない。
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