QUESTIONS質問主意書

第190回国会 「朝鮮半島からの強制動員被害者の被爆者健康手帳審査に関する質問主意書」(2016年5月30日)

質問主意書

質問第一四六号

朝鮮半島からの強制動員被害者の被爆者健康手帳審査に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十八年五月三十日

福島 みずほ   

       参議院議長 山崎 正昭 殿

   朝鮮半島からの強制動員被害者の被爆者健康手帳審査に関する質問主意書

 オバマ米大統領の広島訪問を前に「原爆投下を被爆者に謝罪してほしい」という声が上がったが、太平洋戦争の対戦国や植民地支配されていた国々からは「戦争の被害の側面ばかりを強調するものだ」という批判を受けた。「唯一の被爆国」という言葉がよく使われるが、被爆地に対する見方も一様ではないことを、私達は改めて思い知らされた。広島・長崎には植民地支配下で困窮した農村から多くの人が生活の糧を求めて移り住んでいたし、不足していた男性の労働力を補うために、多くの青年が朝鮮半島から軍需工場や炭鉱、鉱山、工事現場、港湾荷役等に強制的に動員されていたことは周知の事実である。

 政府は「強制動員の補償は日韓請求権協定により解決済み」と繰り返すが、過去、政府が韓国政府に引き渡してきた日本企業の供託金文書は、氏名、本籍などが不正確なため、多くの場合、当事者にたどりつくことができないという。

 本質問の主内容は、このように、不十分な供託金文書の中でも、さらに悪質な、肝心の労務者の名簿を欠くものが多いという問題である。供託金文書は表紙、明細書、名簿などから構成され、供託した企業が正本、供託を受けた法務局と県知事が副本を保管することになっている。

 法務省が昭和三十一年に未払金などの供託金文書は時効を適用せず保管を続けるように指示したにもかかわらず、全国各地の法務局には供託金名簿を欠く供託金文書が非常に多い。名簿を欠く供託文書を引き渡して「解決済みだ」とすることは、到底、当事者の理解を得られるものではないだろう。また、名簿があっても供託の事実を当事者に通知していないため、当事者は当然、供託金の存在も知らない。

 昨年ユネスコの世界遺産に登録された「三菱重工業株式会社長崎造船所」は、六千人を超える朝鮮人「徴用工」を、航空母艦など、日本の戦争遂行に必要な船舶の建造に従事させていたのだが、長崎法務局も長崎造船所も「供託金名簿はなくなった」と言い、法務省も「なくなったようだ」と言って憚らない。

 この事態を、韓国政府機関「対日抗争期強制動員被害調査及び国外強制動員犠牲者等支援委員会」が昨年発行した報告書「広島・長崎朝鮮人の原爆被害に関する真相調査」で明らかにしている。

 以下は同報告書の「結論」からの抜粋である。

 「日本政府は去る二〇一〇年四月、私達の委員会に労務者供託金文書の副本を引き渡した。この文書は、支給されなかった数多くの朝鮮人労務者の未払い賃金など未収金の状況を把握するのに決定的な手がかりを提供するばかりでなく、強制動員の事実の有無も確認できる重要な文書である。原爆で壊滅的な状態に陥った広島市と長崎市は、強制動員が確認できる文書資料が極めて限られている。その中で、今回の供託金文書によって、広島市にあった三菱重工業広島造船所の文書が確認できたことは大きな成果の一つであった。しかし既に日本公文書館つくば分館所蔵の供託金目録を通じて確認している、長崎市の三菱重工業長崎造船所の供託金文書(三千四百六名分)が今回の資料から漏れていたことは極めて不適切と言える。日本当局が作成した文書を、内容の精査もせず、何の説明もないまま、不完全な供託金文書を引き渡したということになるからである。今後、真実の糾明の為には、こうした点に関する日本政府の真摯な姿勢と、誠実な対応が求められる。」

 同じ三菱重工業株式会社でも、広島造船所は広島法務局に供託金名簿を含む供託金文書が保管されており、これを根拠に、昨年三月、一人の元「徴用工」が被爆者健康手帳を交付されている。しかし、長崎造船所、長崎法務局及び長崎県は供託金名簿を保管していないため、長崎市に被爆者健康手帳を申請した三人は、長崎造船所で勤務した者しか知り得ない具体的な記憶があるにもかかわらず「記録や文書がないため証言の裏付けが取れない」という理由で、昨年と今年、相次いで申請を却下された。

 名簿を保管していない企業と法務局の責任は、全く不問である。

 韓国政府が被害申告を審査し、公式に「三菱長崎造船所に労務動員された被害者である」と認定した、九十歳を超える高齢の男性達が、本人には全く非のない「記録の不在」のために、本来なら受けられるべき被爆者としての援護が受けられないという事態は重大な問題である。右の点を踏まえ、以下質問する。

一 戦時中、軍需工場等に強制動員した被害者の被爆者健康手帳については、被害者に動員の記録や立証を求めるべきではない。たとえ文書が発見されなくとも、本人の陳述の信頼性を重視して審査を行なうべきであると考えるが、如何か。

二 厚生年金や郵便貯金が給料から差し引かれていたが、その記録も見つからない場合が多い。しかし厚生年金加入記録がなくても供託金名簿に氏名が記載されていた人も存在する。被爆者健康手帳審査に当たる地方自治体が、被爆地の企業の厚生年金加入記録や供託金文書を点検すべきと考えるが、如何か。

三 供託金名簿に氏名が記載されている労務者には、本人の申請を待たず、地方自治体が大韓赤十字社、或いは韓国政府に対して、被害者の所在、申告内容や被爆者健康手帳の有無を確認し、同手帳未所持者に対する審査や交付を行なうことができるよう、環境を整えることはできないか。

四 地方自治体の被爆者健康手帳審査は基本的に部内で行なわれ、その内容は明らかにされないが、強制動員の実態について必ずしも審査担当者が精通しているとは言い難い。公正な審査を行なうために、外部の専門家を加えることはできないか。

  右質問する。

答弁書

答弁書第一四六号

内閣参質一九〇第一四六号

  平成二十八年六月七日

内閣総理大臣 安倍 晋三   

       参議院議長 山崎 正昭 殿

参議院議員福島みずほ君提出朝鮮半島からの強制動員被害者の被爆者健康手帳審査に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。

   参議院議員福島みずほ君提出朝鮮半島からの強制動員被害者の被爆者健康手帳審査に関する質問に対する答弁書

一及び二について

 原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律施行規則(平成七年厚生省令第三十三号)第一条第二項の規定により、被爆者健康手帳の交付を申請しようとする者は、その者が原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(平成六年法律第百十七号。以下「法」という。)第一条各号のいずれかに該当する事実を認めることができる書類がない場合においては、当該事実についての申立書を交付申請書に添えて提出することとされており、当該申立書としては、申請者本人において当時の状況を記載した申述書及び誓約書の添付を求めているところである。また、「被爆者健康手帳の交付事務について」(昭和五十一年三月十八日付け衛企第五号厚生省公衆衛生局企画課長通知)において、被爆者健康手帳の交付申請に係る審査に当たっては可能な限り申請者本人等から事情を聴取する等により事実確認に努めることとしており、申請を受けた都道府県知事又は広島市若しくは長崎市の長(以下「都道府県知事等」という。)は、必要に応じ関係資料の収集を行う等、申請内容に係る事実関係を丁寧に確認しているところであると承知している。

三について

 法第二条第二項の規定により、被爆者健康手帳の交付を受けようとする者であって、国内に居住地及び現在地を有しないものは、被爆の事由に該当したとする当時現に所在していた場所を管轄する都道府県知事等に申請することとされており、政府として御指摘のように本人の申請を待たずに被爆者健康手帳の審査や交付を行うこととはしていないが、当該申請があった場合には、一及び二についてでお答えしたとおり、その審査に当たっては可能な限り申請者本人等から事情を聴取する等により事実確認に努めるよう周知しているところである。

四について

 御指摘の「外部の専門家」の意味するところが必ずしも明らかではないが、現在、被爆者健康手帳の交付申請に係る審査は、一及び二についてでお答えしたとおり、都道府県知事等が申請内容に係る事実関係を丁寧に確認した上で、適切に行っているものと承知している。

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