QUESTIONS質問主意書

第190回国会 「死刑確定者の精神状態に関する質問主意書」(2016年5月25日) | 福島みずほ公式サイト(社民党 参議院議員 比例区)

質問主意書

質問第一二三号

死刑確定者の精神状態に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十八年五月二十五日

福島 みずほ   

       参議院議長 山崎 正昭 殿

   死刑確定者の精神状態に関する質問主意書

 死刑確定者の精神状態に関して適切な判断がされていないおそれがある。二〇一四年市民的及び政治的権利に関する委員会百十一会期に行われた日本政府審査では、最終見解において、死刑確定者の精神状態を把握するための独立した仕組みを構築するよう同委員会から勧告された。その最終見解に対する日本政府コメントが二〇一六年四月十五日に提出された。それによると、「委員会勧告パラ13(e)について」として、「十八 刑事収容施設及び被収容者の処遇に関する法律第六十二条一項において、刑事施設の長は、被収容者が負傷し、又は疾病にかかっているなどの場合には、速やかに刑事施設の職員である医師による診察を行い、その他必要な医療上の措置を執るものとする旨を定めており、刑事施設では、死刑確定者に対して、常に注意が払われ、慎重な配慮がなされており、定期的な健康診断を行うほか、必要に応じて外部の医療機関で医師による診察を行うなど、死刑確定者の心身の状況の把握に努めている。」、「十九 その結果、死刑確定者が刑事訴訟法第四百七十九条に定める「心神喪失の状態に在る」ことが判明したときには、同条に基づき法務大臣の命令によって執行を停止することとなっている。」、「二十 死刑確定者の精神状態も含めた健康状態については、今後とも、適切に把握し、対処するよう努める所存であり、これによって適切に対応しうることから、死刑確定者の精神状態を把握するための独立した仕組みを構築する必要はないと考えている。」と政府は述べている。右の点を踏まえ、以下質問する。

一 死刑確定者の精神状況について

1 各刑事施設で「定期的な健康診断を行う」と日本政府のコメントに記載されているが、各刑事施設の定期的な健康診断の実施要項を明示されたい。その際、定期健康診断の診断内容・診察項目も含めて提示されたい。また、本人が受診を拒否した場合は、どのような対応になるのか。強制的に健康診断を実施するのか、それとも健康診断を見送るのか、その運用を提示されたい。

2 現在の死刑確定者への定期的な健康診断の実施実績、ならびに各自(個別氏名は不要)の受診回数を提示されたい。また、一年以上、一度も受診をしていない死刑確定者があれば、その人数ならびに主な理由を提示されたい。

3 外部の医療機関による診察が必要な場合は、どのような基準で外部診察を受診できるのか。施設内の取り決め、判断基準を明示されたい。

4 「速やかに刑事施設の職員である医師による診察を行い、その他必要な医療上の措置を執るものとする」と日本政府のコメントに記載されているが、精神科医又は精神疾患に関する知識のある常勤の医師が対応できる体制となっているのか、また、カウンセラー、心理士、看護師を含む体制となっているのか明示されたい。

5 死刑確定者に日常的に接する刑務官は、精神疾患に関する研修を受けているか、受けている場合は研修の実施要項を提示されたい。

6 精神疾患を有する死刑確定者に対する一般的な診療手続き、治療方針、治療方法について(投薬やカウンセリングなど)具体的な手続きが規定されているか、規定されている場合はその手続きを示されたい。

7 死刑確定者の精神状態によって意思表示が困難であり治療を受けたいという意思が明確に分からない状況において本人の治療が必要な場合、刑事施設の長はどのような判断をするのか示されたい。

8 死刑確定者の精神状態によって意思表示が困難であり親族と面会したいという意思が明確に分からない状況において面会人が本人との面会を希望している場合、刑事施設の長はどのような判断をするのか示されたい。

二 死刑適応能力について

1 最終見解に対する日本政府コメントにおける「死刑確定者の精神状態も含めた健康状態については、今後とも、適切に把握し、対処するよう努める」とは具体的にどのような手続きを指しているのか、また、適切な把握、対処はどのような精神状態のときに、どのような対処をすることを想定しているのか、医師等の関与について明らかにされたい。

2 市民的及び政治的権利に関する委員会からの質問事項に対する日本政府回答(仮訳)(第6回政府報告審査)において政府は、法務大臣は専門的見地からの判断をも踏まえて、心神喪失の状態にあること等の執行停止の事由の有無を判断していると述べている(問十三)。死刑確定者が刑事訴訟法第四百七十九条に定める「心神喪失の状態に在る」と判断する場合の判断基準を明らかにされたい。

3 前記二の2における刑事訴訟法第四百七十九条に定める「心神喪失の状態に在る」との判断は、刑法第三十九条における心神喪失の判断と同様に考慮するということか。この解釈を明らかにされたい。

4 前記二の3について、心神喪失の判断と同様に考慮する場合、刑法第三十九条の判断は「究極的には裁判所の評価に委ねられるべき問題」(最決昭和五十八年九月十三日)であるところ、死刑適応能力の判断は、法務大臣の評価に委ねられるべき問題と解釈するのか明らかにされたい。

5 現在までに死刑適応能力が欠けているとして、刑事訴訟法第四百七十九条第一項に基づき死刑執行を停止した事例があるか示されたい。

6 前記二の5について、死刑執行を停止したことがあった場合、刑事訴訟法第四百七十九条第三項に基づき、心神喪失の状態が回復したとして死刑を執行した事例があるか示されたい。

三 第三者機関による精神鑑定等の仕組み作りについて

1 最終見解に対する日本政府コメントでは、「死刑確定者の精神状態を把握するための独立した仕組みを構築する必要はないと考えている。」と述べている。精神状態の把握については、専門家の判断が必須であり、客観的な意見を取り入れるためには、独立した第三者機関が関与する精神鑑定等の仕組み作りが必要である。政府が「独立した仕組みを構築する必要はない」と考えている理由を説明されたい。また、今後構築する予定はあるのか明らかにされたい。

2 精神状態を把握するための独立した仕組みがない場合、死刑確定者の権利として、死刑確定者自ら第三者の専門機関に精神鑑定を求める権利は保障されているか、政府の見解を示されたい。

3 死刑確定者と親族等面会交通権がある者との意思疎通が困難な場合において、親族、担当弁護人等が当該死刑確定者に精神疾患がある可能性が高いとして、第三者機関に精神鑑定を申立てることができる仕組みが必要と考えるが、現時点でそのような手続きが保障されているのか明らかにされたい。そのような仕組み、手続きがないのであれば今後、整備する予定はあるのか示されたい。

  右質問する。

答弁書

答弁書第一二三号

内閣参質一九〇第一二三号

  平成二十八年六月二日

内閣総理大臣 安倍 晋三   

       参議院議長 山崎 正昭 殿

参議院議員福島みずほ君提出死刑確定者の精神状態に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。

   参議院議員福島みずほ君提出死刑確定者の精神状態に関する質問に対する答弁書

一の1について

 お尋ねの定期的な健康診断(以下「定期健康診断」という。)については、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(平成十七年法律第五十号。以下「刑事収容施設法」という。)第六十一条第一項の規定により、刑事施設の長は、被収容者に対し、毎年一回以上定期的に、健康診断を行わなければならないとされている。また、定期健康診断は、刑事施設及び被収容者の処遇に関する規則(平成十八年法務省令第五十七号)第二十九条第一項の規定により、次に掲げる事項について行うものとされている。ただし、同項ただし書の規定等により、①、③及び⑤から⑪までの事項(③のうち、体重の測定を除く。)については、医師が、被収容者の年齢、健康状態、前回の健康診断の結果及び実施の時期、前回の健康診断以外に受けた診療の結果その他の事情を考慮して必要がないと認めるときは、定期健康診断を省略することができるとされている。

① 既往歴、生活歴及び家族の病歴の調査

② 自覚症状及び他覚症状の検査

③ 身長及び体重の測定並びに視力及び聴力の検査

④ 血圧の測定

⑤ 尿中の糖及び蛋白の有無の検査

⑥ 胸部エックス線検査

⑦ 血色素量及び赤血球数の検査

⑧ 血清グルタミックオキサロアセチックトランスアミナーゼ(GOT)、血清グルタミックピルビックトランスアミナーゼ(GPT)及びガンマ―グルタミルトランスペプチダーゼ(γ―GTP)の検査

⑨ 血清総コレステロール、高比重リポ蛋白コレステロール(HDLコレステロール)及び血清トリグリセライドの量の検査

⑩ 血糖検査

⑪ 心電図検査

 死刑確定者を含め被収容者は、刑事収容施設法第六十一条第二項の規定により、定期健康診断を受けなければならないとされ、この場合においては、その定期健康診断の実施のため必要な限度内における採血、エックス線撮影その他の医学的処置を拒むことはできないとされている。

 なお、被収容者が現実に定期健康診断を拒否した場合の対応は、刑事施設の長の合理的な裁量に委ねられていると考えている。

一の2について

 お尋ねの死刑確定者の定期健康診断の実施状況及び各死刑確定者の受診回数に係る網羅的な調査を行っておらず、前段のお尋ねについて網羅的にお答えすることは困難であるが、本年四月一日の時点において刑事施設に収容されている死刑確定者百二十五名のうち十一名は、平成二十七年四月一日から本年三月三十一日までの一年間において、一度も健康診断を受診していなかった。その主な理由は、本人が受診を拒否したためである。

一の3について

 刑事施設の長は、個別の被収容者の状況等に応じて適切な医療上の措置を講じるため、必要に応じ被収容者を刑事施設の外の病院又は診療所に通院させ、やむを得ないときは被収容者を刑事施設の外の病院又は診療所に入院させることができる。また、被収容者を刑事施設の外の病院又は診療所に通院させ、又は入院させるか否かの判断は、刑事施設の長の合理的な裁量に委ねられていると考えている。

一の4について

 刑事施設は、常勤の精神科医等により、必要な医療上の措置を執ることができる体制をとっている。

 また、刑事施設は、看護師、心理に関する専門的な知識を有する職員等により、適切な措置を講ずることができる体制をとっている。

一の5について

 お尋ねの「死刑確定者に日常的に接する刑務官」の範囲が明らかではないため、お答えすることは困難である。

 なお、刑務官については、新たに採用された全ての者を対象とする初任研修課程刑務官等初等科において、精神医学の講義を受講させることとしている。

 この精神医学の講義の目標、内容等は次のとおりである。

1 目標

 精神医学及び精神保健・精神障害者福祉の基礎的知識を付与することによって、障害(知的障害、性同一性障害等)に対する理解を深め、これら障害のある被収容者に対する適切な処遇方法を理解させる。

2 内容

(1) 精神疾患

 一般的な精神疾患の病名・症状、特徴及び精神病患者の処遇について説明する。

(2) 薬物患者

 覚醒剤後遺症等薬物患者の症状、治療及び処遇方法に関して説明する。

(3) 精神保健と精神障害者福祉

ア 精神保健・精神障害者福祉法令について説明し、矯正施設と関係機関との協力の在り方について理解させる。

イ 精神障害を有する被収容者に対する適切な処遇の在り方について理解させる。

3 内容の取扱い

(1) 実施標準時間数は、二時間とする。

(2) 講師は、矯正管区矯正医事課長、矯正施設に勤務する精神科医師、精神医学に精通した外部医療機関の医師等が相当である。

一の6について

 精神疾患を有する死刑確定者を対象とした診療手続、治療方針及び治療方法は定めていない。

一の7について

 お尋ねの「本人の治療が必要な場合」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、刑事収容施設法第六十二条第一項の規定により、刑事施設の長は、被収容者が負傷し、若しくは疾病にかかっているとき、若しくはこれらの疑いがあるとき、又は飲食物を摂取しない場合において、その生命に危険が及ぶおそれがあるときには、速やかに、刑事施設の職員である医師等(医師又は歯科医師をいう。以下同じ。)による診療(栄養補給の処置を含む。以下同じ。)を行い、その他必要な医療上の措置を執るものとされ、また、被収容者が負傷し、若しくは疾病にかかっているとき、又はこれらの疑いがあるときに該当する場合において、その者の生命に危険が及び、又は他人にその疾病を感染させるおそれがないときは、その者の意思に反しない場合に限り、刑事施設の職員である医師等による診療を行い、その他必要な医療上の措置を執るものとされている。

一の8について

 お尋ねの「意思表示が困難であり親族と面会したいという意思が明確に分からない状況」の具体的な状況が明らかではないため、お答えすることは困難であるが、死刑確定者の親族から面会の申出がなされた場合においては、刑事施設の長において、死刑確定者が面会を拒否していると認められる場合を除き、通常、面会を許している。その上で、刑事施設の長において、死刑確定者の心身の状態に応じ、刑事施設の長が通常指定している面会の場所における面会が困難な場合には、病室において面会を実施させるなどの対応をしている。

二の1について

 刑事施設においては、平素から、死刑確定者を含めた被収容者の状況等に応じた適切な処遇を行うため、その心身の状況を把握することに努めており、刑事収容施設法第六十一条及び第六十二条の規定に基づき、刑事施設の長において、死刑確定者の心身の健康を保持するため、死刑確定者に対し必要な健康診断を行い、また、死刑確定者が負傷し、若しくは疾病にかかっているとき、又はこれらの疑いがあるときは、医師等による診療を行い、その他必要な医療上の措置を執るものとしている。

二の2から4までについて

 刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)第四百七十九条第一項の「心神喪失の状態」については、一般に、死刑の執行に際して自己の生命が裁判に基づいて絶たれることの認識能力のない状態をいうものと解されており、死刑確定者の精神状態については、法務省の関係部局において、常に注意が払われ、必要に応じて、医師の専門的見地からの診療等を受けさせるなど、慎重な配慮がなされており、法務大臣は、このような専門的な見地からの判断をも踏まえて、心神喪失の状態にあること等の執行停止の事由の有無を判断している。

二の5及び6について

 お尋ねのような事例は、いずれも把握していない。

三について

 お尋ねの「死刑確定者自ら第三者の専門機関に精神鑑定を求める権利」及び「親族、担当弁護人等が・・・第三者機関に精神鑑定を申立てることができる仕組み」の具体的な内容が必ずしも明らかではないため、2及び3の前段のお尋ねについてお答えすることは困難であるが、死刑確定者の精神状態については、法務省の関係部局において、常に注意が払われ、必要に応じて、医師の専門的見地からの診療等を受けさせるなど、慎重な配慮がなされており、法務大臣において、このような専門的な見地からの判断をも踏まえて、適切に死刑確定者の精神状態を把握し、心神喪失の状態にあること等の執行停止の事由の有無を判断することができることから、死刑確定者の精神状態を把握するための新たな仕組みを構築する必要はないと考えている。

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