QUESTIONS質問主意書

第181回国会 「死刑制度廃止についての議論に関する質問主意書」(2012年11月6日) | 福島みずほ公式サイト(社民党 参議院議員 比例区)

質問主意書

質問第二六号

死刑制度廃止についての議論に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十四年十一月六日

福島 みずほ   

       参議院議長 平田 健二 殿

   死刑制度廃止についての議論に関する質問主意書

 滝実法務大臣は、十月二十四日の大臣就任後の記者会見においてわが国の死刑制度について、(死刑を廃止した諸外国の)国際的な流れを頭に入れる必要がある、日本だけで内向きに判断するだけでは済まない問題だと思っているとの見解を示した。

 また、これに先立つ三月には、平成二十二年より行われていた法務省での死刑の在り方についての勉強会(以下「勉強会」という。)が終了し、その取りまとめ報告書(以下「報告書」という。)が発表されている。今、わが国は、死刑制度をこれまでどおり存続させるか否かの判断が求められているところである。そこで、以下質問する。

一 アムネスティ・インターナショナル(以下「アムネスティ」という。)の調べによると現在死刑を存置している国は、五十八か国であるのに対し、法律上又は事実上死刑を廃止している国は、百四十か国に及ぶ。世界の約七割の国が死刑を既に行っていない。また、一九八九年に国連により採択された「死刑の廃止を目指す市民的及び政治的権利に関する国際規約・第二選択議定書」いわゆる「死刑廃止条約」の批准国は七十四か国に上っている。滝大臣の発言は、こうした国際情勢を踏まえたものと考えられるが、まことに正鵠を得た見解であると考える。今後政府としては、この見解に沿ってどのような具体的対応を考えているか。

二 報告書によれば「死刑制度の存廃に関する主張については、廃止論と存置論で大きく異なっており、そしてそれぞれの論拠については各々の哲学や思想に根ざしたものであり、一概にどちらか一方が正しく、どちらか一方が誤っているとは言い難いものであるように思われる。」とした上で「したがって、死刑制度の存廃については、現時点で本勉強会として、結論の取りまとめを行うことは相当ではない」とし、「国民の間で更に議論が深められることが望まれる。」としているが、今後国民の間で議論を深めるためにどのようなことをなすべきと考えているか、政府の見解を示されたい。

三 アムネスティの調査によれば死刑を廃止した百四十か国のうちには、日本と同様に死刑制度を持つにもかかわらず十年以上死刑の執行を行っていない事実上の死刑廃止国が三十五か国含まれている。また国連は、二〇〇七年、二〇〇八年、二〇一〇年の三回にわたり死刑を存置する全ての国に対し、死刑の執行を停止することを求める決議を行っている。このようなことを考慮するならば日本が死刑制度を保持していることが死刑の執行を義務付ける理由とはならないことは明白である。法務大臣は、死刑制度について国民の間での議論を深めていくことにこそ早急にとりかかるべきであり、その間は死刑を執行するべきではないと考えるが、いかがか。

四 今年十二月の国連総会において四回目の死刑を存置する全ての国に対して死刑の執行を停止することを求める決議案の採択が行われることが予想される。日本政府はこれまでの三回の決議採択においていずれも決議案に反対票を投じているが、今回はどのような態度で臨むつもりか。死刑が残虐で非人道的な刑罰であるという認識が世界に広まる中で日本政府がどのような態度を取るかということは、日本の人権の基準が問われる問題である。これまでの態度を改めて死刑執行停止に賛成すべきではないか。賛成が無理であれば棄権にまわり、少なくとも反対票は投じるべきではないと考えるが、いかがか。

五 一九九七年に東京電力女性社員が殺害された事件で無期懲役刑が確定していたゴビンダ・プラサド・マイナリさんの再審控訴審で検察はマイナリさんは無罪との意見を述べた。戦後死刑が確定した事件でも四件の再審無罪が確定している。私は、死刑問題を論じる上で冤罪の問題は避けることのできない論点であると考え、「死刑制度の在り方に関する質問主意書」(第百七十九回国会質問第二二号)(以下「質問第二二号」という。)の中で勉強会にて冤罪の被害者より意見聴取を行う予定の有無を尋ねた。

 これに対して、「今後の同勉強会の進め方については、議論の状況に応じて、法務省政務三役を中心とした構成員で議論して決定してまいりたい。」との答弁を受けた。しかし、結局冤罪被害者からの意見聴取は行われることなく勉強会は終了した。冤罪被害者からの意見聴取が不必要であると判断した理由を明らかにされたい。

六 ゴビンダ・プラサド・マイナリさんの再審事件では、検察の持つ証拠が早期に開示されていれば、このような冤罪は回避されたのではないかと考える。この事件の反省に立ち、少なくとも死刑や無期懲役のような重刑を科すに当たっては、検察の持つ全証拠の開示が拒まれてはならないと考えるが、今後証拠の全面開示を積極的に行う予定はあるか。また、すでに死刑が確定している場合も、執行に当たっては、全証拠を見直す機会が本人や家族、弁護人に与えられるべきと考えるが、いかがか。

七 二〇一〇年七月二十八日東京拘置所において尾形英紀死刑囚、篠沢一男死刑囚の両名の死刑執行が行われた際に、千葉景子法務大臣(当時)がその執行に立ち会った。その執行に対する記者会見の場で千葉大臣は、東京拘置所の刑場についてマスメディアへの公開を指示したと述べ、その後八月二十七日に司法記者クラブに所属する記者に限定してではあったが東京拘置所の刑場が公開された。

 死刑の在り方を考える場合、実際の執行の現場を知ることは不可欠であると考えるが、滝大臣は、これまでの法務大臣又は副大臣の在任時に刑場の視察を行ったことがあるか。行っている場合、その日時と場所を明らかにした上で、刑場を視察した所感を示されたい。また、視察を行ったことがない場合、今後視察を行う考えがあるか明らかにされたい。

八 質問第二二号で、実際に執行に携わった刑務官から意見聴取を行う予定の有無を尋ねた。これに対する答弁も冤罪被害者の場合と同じ答弁であったが、結局意見聴取は行われなかった。アムネスティが一九七七年に行ったストックホルム宣言には「死刑を科し、それを執行することは、その過程に関わるすべての者の人間性を傷つける」とある。このように執行に関わる人々、とりわけ直接執行に携わる刑務官の人権問題は、死刑廃止論の一つの論拠でもあるが、報告書のまとめではこの問題が抜け落ちている。執行に携わった刑務官からの意見聴取が不必要であると判断した理由を明らかにされたい。

九 質問第二二号において、絞首刑による頭部切断の可能性を大阪地裁公判で証言したオーストリアのヴァルデル・ラブル博士と同じ公判で絞首刑違憲論を証言した土本武司元検察官からの意見聴取の必要性についても尋ねたが、前記五と同じ答弁であった。この両名についても意見聴取は行われなかった。ラブル、土本両氏からの意見聴取は不必要であると判断した理由を明らかにされたい。

十 質問第二二号において、絞首刑による頭部切断の実例として一八八三年(明治十六年)に読売新聞により報道された事例について尋ねたところ「御指摘の事例についての記録はなく、承知していない。」との答弁であった。死刑執行の記録は、何年間保存されるものと定められているか、また、その根拠となる法規は何かについて明らかにされたい。

十一 質問第二二号において、これまでの死刑執行における頭部切断の事例の有無について尋ねたところ「お尋ねのような事例は承知していない。」との答弁であった。「承知していない」とは事例はないという意味か、それとも事例はあったかもしれないが記録を調べきれないという意味か。記録があるものについては事例がないことを確認したがそれ以前のものについては記録がないため不明である場合、何年以降については確認できたか明らかにされたい。また、死刑執行に際し、どのような記録が作られ保存されるのか明らかにされたい。

十二 政府は、「国連人権諸条約の個人通報制度に関する質問主意書」(第百七十七回国会質問第二七五号)に対する答弁書(内閣参質一七七第二七五号)において、個人が人権侵害救済を国際機関に申し立てることができる個人通報制度に関し、「条約実施の効果的な担保を図るとの趣旨から注目すべき制度」であるとして、「政府として真剣に検討を進めている」としている。日本の死刑制度についての国連からの数次にわたる勧告等、日本の人権状況に対する国際社会のまなざしは厳しいといえる。日本の人権状況を国際的に通用するものにするためにも一刻も早い個人通報制度の導入が必要と考える。この個人通報制度について、昨年と比較して導入に向けた検討は具体的にどの程度進んでいるのか、明らかにされたい。

十三 死刑執行方法に関係して、歩行困難な死刑囚の死刑執行を行ったことがあるか。その場合、はね板上への連行、起立、絞縄はめについてどのような方法(刑務官の介助)によって行ったか。

十四 飯塚事件の久間死刑囚について、捜査段階から一貫して無実である旨を主張し、死刑確定後は再審請求を準備していた。しかも、有罪の有力な証拠とされているDNA鑑定については、足利事件においてその正確性に重大な疑問が呈されていた。それにもかかわらず、なぜ、死刑執行を行ったのか、その理由を明らかにされたい。

十五 今年八月三日に死刑が執行された松村死刑囚は、同人の誕生日に執行が行われている。これは人倫に反し、同人にとって残酷なものであったと考えられる。これは憲法が禁止する残虐な刑罰に相当し、拷問禁止条約の拷問に相当すると思料される。なぜ誕生日に執行したのか、その理由を明らかにされたい。

  右質問する。

答弁書

答弁書第二六号

内閣参質一八一第二六号

  平成二十四年十一月十六日

内閣総理大臣 野田 佳彦   

       参議院議長 平田 健二 殿

参議院議員福島みずほ君提出死刑制度廃止についての議論に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。

   参議院議員福島みずほ君提出死刑制度廃止についての議論に関する質問に対する答弁書

一から三まで、五、八及び九について

 死刑制度の存廃については、諸外国における動向等も参考にする必要があるが、基本的には、各国において、当該国の国民感情、犯罪情勢、刑事政策の在り方等を踏まえて慎重に検討し、独自に決定すべきものであると考えている。

 死刑制度の存廃に関する議論については、国民の皆様に自らその必要性を感じ主体的に議論をしていただくことが適切であると考えているところ、平成二十三年十二月までに「死刑の在り方についての勉強会」において行った議論により、死刑の在り方についての中心的な問題である死刑制度の存廃について、廃止論及び存置論双方の主張がおおむね明らかになり、早期にこの議論の内容を取りまとめた報告書を公表することが国民の皆様による議論のために望ましいと判断したことから、当該勉強会を終了し、当該報告書を公表したものである。当該報告書の公表により、国民の皆様に議論の材料を提供することができたものと考えている。

 一方、法治国家としては、死刑制度が存置されている以上は、それに基づいて対応していくべきものと考えている。

四について

 御指摘の決議案に対する投票態度についてあらかじめ答弁することは差し控えたい。

六について

 検察官による証拠開示については、刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)において、検察官が取調べを請求した証拠について被告人又は弁護人に開示することはもとより、その証明力を判断するために重要であると認められる一定の類型の証拠や、被告人又は弁護人が明らかにした主張に関連すると認められる証拠についても、被告人又は弁護人から開示の請求があった場合には、開示の必要性の程度と開示によって生ずるおそれのある弊害の内容及び程度を考慮し、相当と認めるときは、開示をしなければならないこととされており、検察当局においては、これに従って適切に対応しているものと承知している。一方、御指摘の「証拠の全面開示」については、関係者の名誉・プライバシーの侵害、罪証隠滅、証人威迫等の弊害が生じる場合があることや、国民一般から捜査への協力を得ることが困難になるおそれがあるなどの問題があり、慎重に検討する必要があると考えている。

 また、死刑の執行に際して、法務大臣は、裁判所の判断を尊重しつつ、法務省の関係部局に関係記録の内容を十分に精査させた上で、再審の事由の有無等につき慎重に検討しており、お尋ねの「全証拠を見直す機会」を死刑確定者等に与えることは必要ないものと考えている。

七について

 滝法務大臣は、平成十六年十二月二十四日に大阪拘置所の刑場を、平成二十三年九月二十九日に東京拘置所の刑場を、それぞれ視察しており、刑場は死刑という最も重い刑を執行する厳粛な場であると認識しているところである。

十及び十一について

 矯正緊急報告規程(平成八年法務省矯総訓第五百十六号大臣訓令)により、刑事施設の長は、死刑を執行した場合には、その状況を死刑執行速報により法務省矯正局長及び当該刑事施設を所管する矯正管区の長に対して報告することとされている。同局長に対する報告に係る死刑執行速報の保存期間については、公文書等の管理に関する法律(平成二十一年法律第六十六号)第五条、公文書等の管理に関する法律施行令(平成二十二年政令第二百五十号)第八条及び法務省行政文書管理規則(平成二十三年法務省秘文訓第三百八号大臣訓令)第十六条第一項に基づき法務省矯正局成人矯正課長が定めた標準文書保存期間基準により三年とされ、矯正管区の長に対する報告に係る死刑執行速報については、同様に各矯正管区において定められた標準文書保存期間基準により定められているが、これについては網羅的には把握していない。

 また、刑事訴訟法第四百七十八条により、死刑の執行に立ち会った検察事務官は、執行始末書を作成することとされ、執行事務規程(平成六年法務省刑総訓第二百二十八号大臣訓令)第十四条により、死刑の執行指揮検察官は、死刑の執行をしたときは、その旨を執行始末書の謄本を添付して法務大臣に対して報告することとされている。当該報告に係る報告書(以下「死刑執行報告書」という。)の保存期間については、公文書等の管理に関する法律第五条、公文書等の管理に関する法律施行令第八条及び法務省行政文書管理規則第十六条第一項に基づき法務省刑事局総務課長が定めた標準文書保存期間基準により、十年とされている。執行始末書の原本の保存期間については、同法第五条及び同令第八条に基づき各検察庁において定められた行政文書管理規則及び標準文書保存期間基準により定められているが、これについては網羅的には把握していない。

 先の答弁書(平成二十三年十一月二十二日内閣参質一七九第二二号)四についてにおいて、「お尋ねのような事例は承知していない」とお答えしたのは、その時点で保存されていた平成二十年以降の法務省矯正局長に対する報告に係る死刑執行速報及び平成十四年以降の死刑執行報告書にそのような事例が発生したと認めることができるものがなく、また、調査した限りにおいて、そのような事例を承知している職員が見当たらなかったからである。

十二について

 市民的及び政治的権利に関する国際規約(昭和五十四年条約第七号)の第一選択議定書等人権に関する様々な条約に設けられている個人通報制度については、条約実施の効果的な担保を図るとの趣旨から注目すべき制度であると考えている。個人通報制度の受入れに当たっては、我が国の司法制度や立法政策との関連での問題の有無や個人通報制度を受け入れる場合の実施体制等の検討課題があると認識している。個人通報制度の受入れの是非については、日本弁護士連合会、有識者等を含む各方面から寄せられている意見も踏まえつつ、引き続き政府として真剣に検討を進めているところである。

十三について

 御指摘の「歩行困難」の意味するところが必ずしも明らかではないが、死刑の執行に当たり、被執行者の歩行機能の低下により、通常と異なる対応を要した事例は承知していない。

十四及び十五について

 個々具体的な死刑執行の判断に関わるお尋ねについては、答弁を差し控えたい。

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