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福島みずほの いま会いたい いま話をしたい ~ゲスト:やなせ たかしさん~ | 福島みずほ公式サイト(社民党 参議院議員 比例区)
一番間違っているのは〝戦争〟
社民党を面白くしてください
福島
私は子どもがいますのでアンパンマンのDVDを持っていますし、月刊誌『詩とメルヘン』も読んでいました。
やなせ 『詩とメルヘン』は、日本の中で叙情的なものが失われていくのは非常に残念という思いで30年間編集長をやったのですが、ついに刀折れ矢尽きてしまって。今は少しでも赤字が出ると文句を言われる時代なので支えきれなかったのですが、実は「またやろう」という話が出てきているのです。
福島
今の時代にこそ必要かもしれないですね。絵もきれいでした。
やなせ 今は芸術と言うと、結構、汚らしいものが「これがいいんだ」と言われるけれども、僕の場合は子どもが見ても大人が見ても、きれい、可愛いというものにとどめている。だから甘いとか、いろいろ悪口を言われましたが、実際にはそういうものが必要なのではないかと思います。もちろん高尚な芸術も必要ですが、やはり僕は普通の人が見てきれいとか、可愛いというものの方が本当は大事ではないかと思っているのです。だから、いつまでたっても大芸術家になれない。
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私もアンパンマンはもちろんですが、ご著書『人生なんて夢だけど』(フレーベル館刊)も読ませていただきました。若き日の永六輔さんや、向田邦子さんが出てこられたのでびっくり。やなせさんが向田さんの脚本を直されたそうですね。
やなせ 向田邦子さんに最初にお会いした時には、彼女は映画雑誌の記者だったのです。誰かの紹介だったのですが、原稿を取りに来ていた。向田さんが「やなせさんの文章は面白い」と言うので、彼女が脚本を書き出す時に、ここは直した方がいいと。今考えると冷や汗が出ちゃって。あんなに有名になった文章の上手い人を、俺が直したりしたら申し訳ないと。
福島
永六輔さんが出てきたのには驚きました。永さんにもこんな時代があったんですね。
やなせ 永ちゃんは、それまで全然知らない人だったんです。それが突然、うちにやって来て「やなせさん、舞台装置をやってくれ」と。舞台装置なんて1回もやったことがなかったのに何で来たのか、それはずっと疑問だったのです。ですからこの間、永ちゃんに会ったので、あの時なぜうちへ頼みに来たのと尋ねると、「やなせさんの絵が好きだったからです」と。そのころは売れてなくてあまり描いてなかったのに、変わった人ですよ。
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亡くなられたパートナーのノブさんのことも生き生きと書いていらっしゃいますが、驚いたのは社会党の代議士の秘書をされていたんですね。
やなせ
そうだったのです。
福島
お写真がたくさん出ているけれども、亡くなられた年からみてもお若いですよね。
やなせ わりと若い人だったね、見た目は。威勢がよくて気っぷがいいんでね、女性のファンが多かった。例えば飲み屋さんで飲んでいると、その飲み屋の女の人が家について来るのです。
福島
やなせさんの方ではなく。
やなせ
そう。僕は酒を飲まないので。かみさんは結構飲める人だったので、飲み屋のお姉さんが「奥さんが大好き」と言って。
福島
私はアンパンマンの「愛と勇気だけが友だちだ」と歌うテーマソング(「アンパンマンのマーチ」)には、勇気をもらっています。私もこの時代に愛と勇気が必要だと感じていますから。
束縛されるのがすごく嫌い
やなせ
ありがとうございます。あのテーマソングについて、うちへ投書が来るのです。「愛と勇気だけが友だちで、あとの人たちは友だちではないんですか」と。それはつまり普段はみんな友だちですが、自分が戦う時には誰かをあてにしてはいけないんです。戦う時は、そして死ぬ時は、自分1人だけ。友だちは愛と勇気だけだと。だから、あとの人は友だちでないという意味ではないんですけどね。
福島
でも、あらためて文章で書かれたものを読んでみると、やなせさんはもともと非常に自由人だと感じました。
やなせ
束縛されるのがすごく嫌いなのです。
福島
芯の座った自由人ということが、バックボーンとして今につながっているのだと思いますね。
やなせ 僕は、昔の東京高等工芸学校(現・千葉大学工学部)という学校で学びました。自由主義の学校で、今はこういう気風の学校はないでしょうね。制服は黒い背広で青に虹色が入っているネクタイでしたが、それ以外にもどんなネクタイをしてもいい。学校のネクタイを買うのはおカネがかかるから、お父さんのネクタイでも何でもいいと。そして背広も、あまり派手な色でなければ黒でなくてもいい。お父さんのであろうが、何であろうがかまわないという学校だった。だから中には、学校のカーテンを切ってネクタイにしていたひどいヤツもいましたが、非常に自由な学校で何の束縛もなかったのです。
そのために僕なんかも、入ってからしばらくは何もしないで遊んでばかりいました。しかし1年くらいするとがく然として気がつくのです。つまり何もしないでいると、何も覚えないで出ていくことになる。これは大変だというので、自然に勉強するようになるんです。自分で図書館に行ったりいろいろなことをして、友だちと一緒に勉強するようになる。こういうやり方のほうが正しいと思います。
福島
銀座で遊んでいた話も面白いですね。
やなせ
つまり「勉強しろ」ではなくて、「皆さん、銀座に行きなさい」と教えられた。デザイナーになるのなら、とにかく感覚が重要なので、そのためには学校に行ってただ勉強しているのでは、ろくなデザイナーにはなれない。銀座に行って最先端のものを見なさいという。
福島
教えを忠実に守って遊んでいた(笑)。
やなせ
僕はまじめだからね。先生の言うとおり毎日銀座に行っていましたが、良かったですよ。これは正しかったと思います。
福島
ところでアンパンマンは大変なロングランですね。
やなせ
もう32年になります。テレビは18年目です。
福島
アンパンマン誕生秘話を聞かせていただけますか。
正義が逆転することを経験
やなせ
思いついたきっかけの1つは、僕は兵隊として中国に行っているのですが、戦争が終わって正義が逆転するということを経験した。
つまり僕らはそれまで「これは正義の戦いだ」と言っていたのです。それが今は「悪い戦いだった」ということになっている。戦争が終わったとたんに逆転してしまったのです。だから「正義は簡単に逆転するんだ」「甲の国の正義と乙の国の正義とは違うんだ」ということが根底にあります。
もう1つは、最もつらいことは飢えることだということです。もし正義の味方だったら飢えた人をまず助けなくちゃいけない。しかしそのころスーパーマンとかウルトラマンとか、いろいろな正義の味方があったけど、誰ひとり飢えた人を助けることはやらないのです。怪獣をやっつけるとか破壊するとか、そればっかりやって、その後の補償を一切やらない。例えば、ウルトラマンが戦って、そのあたりの原野が全部燃えてしまっても、弁償しに来たのを見たことがないんですね。それは間違いだと思う。もし本当の正義の味方だったら、まず飢えた人を助けることの方が大事です。僕の中で、一番間違っているのは戦争だという気持ちが強くなった。ですから冗談にアイロニー(反語)として、アンパンマンが飛んで行って、飢えた子どもにパンを配って助けるというお話を書いたのです。でも国境を越えたとたんに、このアンパンマンは高射砲で撃ち落とされてしまうんですよ。なぜならば飛行許可を取っていないのです。未確認飛行物体で国境を越えているから撃ち落とされてしまうという、苦い話を書いた。子どもにウケるとは一切、思っていませんでしたよ。
ところが、これがなぜか子どもにとてもウケてしまい、それまでは大人向けのものを書いていたのが、突然、子どもの絵本を書く人になってしまった。
それがもともとのきっかけですね。ヒーローというのは、そう強くて立派なものじゃない。アンパンマンは、ちょっとの雨にぬれてもすぐ弱ってしまう。つまりとても弱いんですが、何かを助けなくちゃいけないという場合は自分を犠牲にして助ける。そういうヒーローなんです。
ごく地味なヒーローなので子どもにはウケないだろうと思ったし、テレビ局の人からは「やなせさん、今の子どもにこんなものはウケません。アンパンが空を飛んで、子どもに食べさせるなんてウケるわけがない。もうちょっとインパクトの強いヒーローでなければウケません」と言われて、僕もそうだと思っていた。ところが子どもにウケてしまった。3歳、2歳という子どもたちが、面白いと言い出したんですね。
例えばアニメーション、漫画、いろいろありますが、ファンの年齢層が低いのはアンパンマンですよ。僕が展覧会をやると、ベビーカーに乗った赤ちゃんがいっぱいやってくる。ですからお母さんに、こんな赤ちゃんじゃ分かりませんからと言うと、いや、うちの子どもは分かりますと言うんですよ。
福島
私も「愛と勇気だけが友だちだ」というのは、今の時代に本当に必要なことだと感じます。例えば国会にいると、憲法改悪の動きも強まっていく中で、単純な愛とか勇気というのをもう1回みんなが確認して、元気になるといいと思います。不足しているのは愛と勇気じゃないかって。
アンパンマンって殴られると「ぼくダメだ」と力がなくなるじゃないですか。でもジャムおじさんが、新しいきれいな顔をつくってくれると元気になる。殴られたり、お前なんてダメなやつだと言われたりすればどんな人でもヘナヘナとなっちゃうけど、もう一回生き直せる、元気になれるという政治が必要ではないかと思います。
助け合って生きている人間
やなせ
僕が考えたことはとても簡単で、要するにパンは焼きたてが一番おいしいということ。古くなればまずくなるし、エネルギーが弱るわけです。だけど見る人はいろんなふうに解釈するのです。例えば仏教の方に「これは炎の中に飛び込んで自分を犠牲にするという教えと同じだ」と難しいことを言われてびっくりしたこともあります。
今は一番、自己犠牲をしない時代で、自分がよければほかの人はどうでもいいという風潮がある。自己犠牲と言うと自分だけが犠牲になると考えがちだけど、われわれは全部助け合って生きているんです。自分だけでは生きられないですよ。人を助けることによって自分も助かることがあるのです。
例えば、伝染病の病院で働いている人は、そこで働くと自分も伝染するかもしれないという危険は十分あるわけでしょ。でもそれをやることによって、自分も救われてくる部分がある。本当に人間というのは不思議で、自分が犠牲になってやっているようなことでも、そのことによって自分が生きることがあるのです。自分だけがいいというふうにはいかないんですよ。「村上ファンド」もそうだけど、あまり飛び抜けて自分だけがいいという状態になると、後で必ずしっぺ返しを受けますね。
福島
やなせさんの故郷の高知に行くと面白くて、高知市の自由民権記念館ではこんなに多彩な人を生み出したのかと感心します。ユーモラスなところもあるし、女の人がヘナヘナとしていない。自由人であり反骨精神が旺盛な気質は高知の風土と関係がありますか。
やなせ
高知の人は、女性は「はちきん」と言われている。つまりおてんばのことですけど。男性の「いごっそう」というのは、ちょっとひねくれた部分がありますが。高知の人間はバラバラなんですね、坂本龍馬にしてもそうです。彼は県外に出て、西郷隆盛とか高杉晋作とか、外の人とは交わっていますし、日本全体について考えているわけですが、郷土のために何をしたかと言えば、何もしていないのです。
福島
気が大きかったんでしょう、みんな。目の前に太平洋を見ているから。
やなせ
それはほとんど全員にありますね。これが北海道だとすごく郷土意識が強いので、寄り集まっていて非常に面倒見がいい。ところが高知は面倒見が悪いと言うのか、個人個人バラバラですね。ある意味で個性が強いところもあり、そういう部分が漫画家には向いているんじゃないかという気がします。だから高知出身の漫画家は多いですよ。
福島
そうですね。思想家も政治家も多いですね。
やなせ
そのかわり、みんなで集まって一緒に何かをやるということはすごく不得手なのです。
福島
ご本を読んで、やなせさんのとてもユーモラスなところに感激しました。楽しいパーティーもやっていますね。里中満智子さんを呼んで結婚式をやって。
やなせ
里中さんに「俺と結婚するか」と言ったら、「するする」と言うので。彼女は漫画家の中では一番美人なのでね。あまり面白かったので5回ぐらいやった。
福島
機関車に乗って登場するとか、本当におかしいと思って。それはユーモア精神、人を楽しませたい、自分が楽しみたいということなのでしょうか。
人を楽しませ自分も楽しむ
やなせ
自分も楽しみ、人も楽しませるということですよ。日本人はパーティーがすごく下手で、だいたいが面白くない。話ばっかりする人もいるし。いろんな授賞式があるけれども、しゃちほこばっていて面白くない。僕の場合は面白くやろうということなんですよ。そのためにやっているんだけど、おカネがかかっちゃって。
福島
ユーモア精神があるから年をとられないんですね。お肌もつやつやですし、すごいですね。
やなせ
ところが外側だけで、中身は全部壊れていてダメなのです。
福島
アンパンマンもいいけど、悪役のバイキンマンがスパイスになって効いていますね。私、バイキンマンも大好きなんですよ。
やなせ
バイキンマンの人気の理由は、例えばみんな学校に行けばサボリたいとかね、そういうことを考えているんですよ。しかし実際には制約があるし、自分の気持ちも抑えている。ところがバイキンマンみたいに好き勝手にやっていると非常に開放感があって、共感があるのです。僕も悪役をつくってみたら、結構人気があって、バイキンマンができたからアンパンマンも良くなったという面も十分にある。あれは成功したと思います。
福島
でもバイキンマンもドキンちゃんに弱かったり。ドキンちゃんって、したたかな、今どきの女の子じゃないですか。「食パンマンが好き」と言いながら、バイキンマンをこき使って。
やなせ
それは女性の方が強いんですよ。
あまりバイキンマンがアンパンマンにやっつけられるので、かわいそうだから味方をつくろうと思って、ドキンちゃんをつくったのです。そうしたらしばらくすると、ドキンちゃんの方がやたら強くなって。自分が強くしようと思っているんじゃないんですよ、自然にそうなっていく。どうしてもドキンちゃんにバイキンマンはあごで使われるみたいになって、夫婦関係と同じになって(笑)。それは自然の成り行きですね。ところがドキンちゃんに男性ファンが多いんですよ。
福島
だって今どきの女の子だもの。
やなせ あんなわがままな女で好き勝手なことばかりしているのに、男の人はああいうのが好きなんだね。つまり、おとなしい女性よりもああいう方がやっぱりいいみたいですよ。
福島
ドキンちゃんって可愛いもの。
やなせ
そうね、まあ。顔は、やや可愛いけど、本人はもっと可愛くて美人だと思い込んでいるんですよ。
福島
それが今どきの女の子ですよ。本人は自分は可愛いと思い込んでいる。
やなせ
全キャラクターの中で一番おとなしい、食パンマンを好きになってしまうんですね。本当なら物足りないと思うんだけど、クラスには必ずわがままで美人で意地悪という女性がいるんですよ。僕があれを書いたら「あ、ドキンちゃんは、うちのクラスにもいます」とかね、「うちの学校では先生がドキンちゃんです」という反響があるんです。結構、人気者なんだけど、妙に意地悪なところがある。
福島
あまり意地悪とは思わないけど。
子どもの時に読むもの大事
やなせ
もともとのことを言えば、結局「風と共に去りぬ」なんですね。
福島
あれはスカーレット・オハラですよ。
やなせ
そうなんです。すごくいやな女ですよ。
福島
いやな女で、愚かな女ですけどね。
やなせ
妹の恋人を取っちゃうしね。ところがファンはすごく多いし、女優になるとスカーレット・オハラをやりたいとみんな言うんですよ。
福島
だってメラニーよりはいいですよ、影は薄くないから。
やなせ
メラニーはおとなしい人ですよ。でもメラニーをやりたいなんて誰も言わない。「風と共に去りぬ」は、どこが一番いいのかと言うと、キャラクターが非常にくっきりと描けていることなんです。あれが成功の秘訣ですね。NHKの朝ドラを見ていてもストーリーじゃなくて、キャラクターが非常にしっかり描けていれば面白くなる。キャラクターが変にあいまいな場合は、物足りないんですね。
福島
なるほど。でも政治の世界もそうかもしれない。バイキンマンばかりになると困りますが。
やなせ
それは困るよね。
福島
今、愛と勇気が友だちで、自己犠牲を払うアンパンマンのような政治家がいない気がします。今の日本では必要だと思いますけどね。
やなせ
必要だと思いますが、教育して教えられるものではないので、やはり面白いお話の中で学んでいってほしい。特に子どもの時に読むものは大事で、何となく体の中に染み込んでくるんですね。その時に与えられるものが非常に悪いもの、例えば暴力だったりすると、大人になってからその子は暴力的になってくるんです。子どもの時のものは大切です。僕は子どもの作品をやりだしてから、そのことに初めて気がついたのです。
福島
子ども向けの「ロード・オブ・ザ・リング」や「ゲド戦記」、「ナルニア国物語」などは、みんな愛と勇気を持って戦う話ですよね。日本は正義が逆転していくこともあるから、正と悪というのは単純には言えないけれども、子どもたちが愛と勇気を持って、場合によっては自己犠牲的なこともあって頑張ろうという名作が多いですね。それはある種の、時代の中での思いがあるのでしょうね。
やなせ
そうだと思いますね。
福島
ところで、やなせさんが若さを保つ秘けつは何でしょうか。
仕事するのが若さの秘けつ
やなせ
僕、老人だから分かりません。
福島
でも全然年をとられないですね。
やなせ
唯一あるとすれば、仕事をするということでしょうね。仕事をするのが一番面白い。仕事していないと老いていきます。ですから絶えず仕事をしている。僕は具合が悪い時も仕事をします。そっちへ気持ちが行って忘れるんですね。ちょっと頭が痛いのも、仕事していると忘れてしまう。やめたとたんにまた痛い。
福島
アンパンマンの話は、ポジティブなところがあって見ていて元気になりますよね。
やなせ
そう言っていただけると嬉しいですね。病気の子どもが元気になったり、自閉症の子どもがしゃべりだしたりということも時々あるんですよ。
昨年、順天堂病院で「年末までしか生きられません」と言われていた重い病気の子どもの親から「この子を一度大好きなアンパンマンに会わせてやってくれませんか」と言われたので、着ぐるみをやっているところに頼んで、僕も行ってその子に会ったんですね。その子は寝たきりで全然動くこともできず、その時は別に笑ってもいなかったし、ものも言えないという状態で。ところがしばらくしてあの子はどうなりましたかと聞くと、あれから突然元気になって今は車いすで動き回っています、手術ができる状態になりましたので手術しますと。こういうことが、時として起きているんですよ。嬉しいと思った時に、元気が出てきて持ち直す人がいるんです。
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私も小児病棟で長期入院している子どもたちのところに行くことがあるんですが、それはすごくいい話ですね。その子にとって着ぐるみと原作者が来てくれたのは、すごく嬉しかったんじゃないですか。それこそアンパンマンが助けてくれたという感じですね。
やなせ 順天堂では、例えばそれまでは糖尿病内科にいたナースが、今度は小児科に行くとなった時、先輩に「今度、小児科へ転属になりますけど何を勉強したらいいでしょうか」と尋ねると、「何もしなくていい。ただアンパンマンソングだけを覚えてきて下さい」と言われるそうです。「♪何のために生まれて(『アンパンマンのマーチ』の歌い出し)」から始まる歌を覚えていないと、小児科は勤まらないと。
高知県の国立病院は、小児病棟は全部アンパンマンです。壁画から何から、玄関にも立っているし。順天堂では今年の10月に大コンサートをやります。
福島
アンパンマンのコンサートですか。
やなせ
私も出て歌います。
福島
先日、四国へ行ってアンパンマン列車に乗りました。アンパンマンのすごく大きなお人形が駅員さんの格好をして、駅に座っていましたね。
いざという時戦う気持ちを
やなせ
アンパンマン列車は四国全線で走っているのです。割と人気があるらしくて。特に人気があるのがアンパンマン弁当で、あっという間に売り切れる。
福島
やなせさんはご本にも書いていらっしゃるように、いい人生じゃないですか。愛と勇気を伝えたいと思って、広く伝わったわけだから。
やなせ
だいたい不遇な人間なんだけど、今思えば幸福だと言えるのかもしれない。この年になって、まだ一線でやっていますから。
福島
素敵なパートナーに恵まれて、恋愛もそこそこし、お友だちに恵まれ、仕事に恵まれ、キャラクターがみんなに愛されて。
やなせ
その点で言えば、いいのかもしれない。
福島
今のような殺伐とした時代に、愛と平和とか、愛と勇気という大事なことがもう少しポジティブに伝わるといいなと思います。
私がアンパンマンを好きなのは、いろんなことに対してアンパンマン自身は果敢に行動するし、優しい。時にへなちょこになったり力が出なくなるから、超スーパーマンでもないしね。
やなせ
僕もすごく弱い人間で、怖いことからすぐ逃げ出してしまう。でもやらなくちゃいけない時があるんです、どうしても。
ここでは戦わなくてはいけないという時があるんですね。普段は弱くてもね。これは火災が起きた時、普段は弱いお母さんでもそこに子どもがいる場合、その中に飛び込んでいくということです。線路に子どもが落ちてしまった。自分もそこに飛び込めば死んじゃうかもしれないけど、その時には飛び込んでしまう。いつも強い人じゃないけど、いざという時にはやらなくてはいけないことがある。そういうことだと思う。
アンパンマン自体はとても弱い。ほかのヒーローと比べても最も弱い。ちょっと顔がゆがんでも、もうダメですから。それぐらい弱いんだけど、ここぞという時は戦うということではないのかな。つまり、いつもずっと弱くて逃げてばかりではダメで、どうしてもこの一線は譲れないという時は戦わなくてはいけないんですね。
福島
ご本を読んでも、やなせさんの優しい部分とすごくユーモラスな部分と、硬骨漢の部分が出ていて面白かったです。
やなせ
だから社民党も面白くしてください。
福島
はい、分かりました。頑張ります。
やなせ
社民党の演説は面白いということになれば。
福島
どうもありがとうございました。本当に楽しかったです。
対談を終えて
やなせたかしさんは、「アンパンマン」であまりにも有名です。アンパンマンの愛と勇気と優しさは、多くの子どもたちにかけがえのないものを与えてくれます。
やなせさんに対談の申し込みをしたら、快諾して下さったので大喜びでした。
当日はドキドキ。アンパンマングッズにあふれた部屋で楽しく話をさせていただきました。
私は本を読んで、やなせさんのユーモアと正直さに感動していたので、それが倍々となって楽しかったです。
やなせさんは、なんと歌を歌って下さいました。愛とサービス精神あふれる姿に本当に嬉しくなりました。楽しい歌で、青年みたいなやなせさんでした。
社民党が平和を願い、憲法が大切と思うのは、愛と優しさからです。そして、そのためには、今、多くの人に勇気が必要です。原点にかえって、本当に楽しい日でした。ありがとうございます。
■プロフィール
やなせたかし
1919年、高知県香北町(現香美市)生まれ。東京高等工芸学校図案科(現千葉大)を卒業1947年、三越百貨店宣伝部にグラフィックデザイナーとして勤務。1953年、退社。1973年に『アンパンマン』の最初の絵本を刊行。月刊『詩とメルヘン』を創刊し責任編集。1988年には『アンパンマン』がアニメ化に。
現在は、日本漫画家協会理事長、日本青少年文化センター理事ほかを務める。
受賞歴は、勲四等瑞宝章受賞をはじめ、日本漫画家協会文部大臣賞、日本童謡協会特別賞ほか多数を受賞。
(『月刊社会民主』2006年8月号)より